あちこちの管理組合で大規模修繕工事の相談を受けていると、ある顕著な傾向があることに気がつきます。管理組合の理事の皆様は短期的なボランティアのため、致し方ないことではありますが、自分の専門外のことで事情がよくわからないため、大規模修繕工事のように大きな出費が発生するケースだと、殊更に事後の事を考え、大きな会社に頼んでおけば無難という発想をお持ちの方が沢山います。
しかし、この考え方は間違いです。私はコンサルティング業務の一環として、マンションの瑕疵トラブルの相談に乗るケースが結構ありますが、瑕疵トラブルでは不動産会社や建設会社等の大きな組織と対峙することが多いのですが、大きな組織ほど交渉相手としては手強いのが現実です。理由は簡単、大きな組織ほど会社利益には貪欲で一度得た利益は死んでも手放さないという傾向が顕著です。そうでなければ大きな組織は維持できないということかもしれませんが、とにかく大きな組織は自社利益減の方向には簡単には動きません。
マンションの大規模修繕工事に目を向けてみても方向性は同じです。マンションの大規模修繕工事は地味な仕事で、企業イメージを向上させるような派手な効果は期待薄の割に、一般の人達を相手に仕事をしなければなりませんので、クレーム対応が大変なのです。日本の土建業界は基本的に三層構造になっていて、大きな組織が元請となり実際の仕事は下請け会社がまとめます。そしてその下請け会社の下に職人グループ等の作業員部隊が孫請けとして入るという三層構造です。大きな組織はいわば商社です。事業主の依頼を聞き実働部隊に流すのが仕事です。
この三層構造自体は特に問題とは言えませんが、頭に立つ元請が大きな組織の場合は少々問題があるのです。なぜなら大きな組織は自社利益が確保できない案件には絶対手を出しません。またリスキーな仕事に対してもかなり慎重です。それが大会社なのです。さらに誰でもわかるように大会社の従業員の給料体系は当然中小企業よりは高額だし、本社経費も大きいのが現実です。こういった環境を冷静に考えれば、マンションの大規模修繕工事のような保全工事に関しては大きな組織に工事を依頼するメリットがほとんどないのです。新築物件を購入する際は大きな組織の信頼性には意味があると思いますが、マンションの大規模修繕工事に関しては、安心料と考えて支払った高額な工事代金には、ほとんど意味がない事を理解していただければ幸いです。