マンションの給排水管更新工事は本当に必要か?

マンションの維持管理の中で悩ましいのが給排水関係の修繕工事です。とりわけ目視確認が難しい配管関係の修繕については、非常に難しいと言わざるをえません。マンションという形式の集合住宅が出始めた当初の建物では所謂「赤水」と呼ばれる錆混じりの給水状態が生じ、給水管の更生工事が古くから行われておりますが、結構な工事金額が発生する事もあり、電気イオン処理、磁気処理等の方法も出ましたが、これといった決め手に欠け、マンション住民にとっては悩みの種の一つでありました。しかし、1970年を過ぎる頃には現在の給水配管材料の主流である塩ビライニング鋼管が一般にも使われ始め、1973年には建設省(現国土交通省)が共通仕様書に給水配管材料として、塩ビライニング鋼管を追記しました。

つまり、この頃を前後してマンションで使われる配水管材料が大きく変わったことになり、この時期よりも新しい時期に建設されたマンションでは所謂「赤水問題」の声は聞こえなくなります。塩ビライニング鋼管とは鋼管の内部に硬質塩化ビニール管をライニング(はりつけ)した防食鋼管ですので、直管部分は基本的に錆びることはありません。ただし、給水配管は間取りにより水道管の引き込み位置から何度か曲がりながらひかれますので、途中に何度か接続箇所が生じます。接続箇所は接続部品でつなげられますが、長い部材を切断しての使用となるため、切断した箇所には錆が発生する可能性が出て来ます。マンションが竣工してからの経過年数が増えると、接続箇所に発生した小さな錆が少しずつ大きくなり、錆こぶと呼ばれる塊に成長しますが、問題はその塊のサイズだと思われます。小さなうちは日常生活にはほとんど影響がありませんが、水道管の内部を塞いでしまうほどに成長した場合は除去する必要があります。この場合も昔から行われてきた更生工事が行われますが、工事の際には水道管内部の水を一旦抜き、水道管内部に砂を飛ばして、錆こぶやスケールを削り、削り終わった後はエポキシ系の材料でコーティングするのが一般的な方法です。

さて、問題は自分のマンションではどうしたらいいかということになりますが、よく考えたいのは給排水配管の方式には色々あって、どこのマンションもみな同じという訳ではないことです。まずは自分のマンションではどういった配管方式と配管材料になっているかを把握する必要があります。同じ塩ビライニング鋼管を使用していても継手としてコア継手を使用していれば、錆こぶ発生リスクも少なくなると考えられるし、マンションによってはヘッダー方式を採用して配管元から末端までを1本の配管にしてある設計物件もあるので、みな同じ内容ではないのです。また排水管に関しても塩ビパイプやトミジ管(内側は塩ビ管)を使用しているケースでは錆による劣化はありません。

つまるところ、自分のマンションでは、給排水配管として、どういった方式が採用され、どんな材料が使われているかを正しく把握することからスタートしなければなりません。そのためにはまず、竣工図書(設計図)や施工図を確認した上で、更に実際にはどうなっているかを確認する必要もあります。往々にして、図面と実態が違うといったこともありうる話です。実際の配管がどのような状態にあるかは非破壊検査によって調べる事が出来ますが、調査範囲には限界もあるので、必要に応じて住戸内の内装材等を撤去・復旧して確認しなければならないケースも考えられます。

しっかりした事前調査を行うためには、専門家を中心とした調査チームを編成する必要がありますので、当方では以下のような手順で調査を進める方針にしています。
<メンバー構成>
①管理組合メンバーによる委員会
②建築コンサルタント(一級建築士)
③非破壊検査調査会社(ファイバースコープ調査)
④建築施工の専門家(現場監督経験者等)

配管図面の確認段階から各専門家が参加し、まずは図面内容から現状把握を行った上で、管理組合に対して、実態調査の内容と方法を説明して了承を取り、実際の非破壊検査を実施することになります。

非破壊試験で配管の全貌が把握できる場合は問題ありませんが、非破壊検査だけでは配管の実態が把握できない場合は、必要に応じて、住戸内の内装材を撤去して配管を確認する必要性も出て来ますので、その場合は建築施工の専門家が主導して内装材の撤去・復旧の手配をする必要があります。

以上のプロセスを経て、配管系統の実態が把握できた後に、初めて適正な修繕工事の計画が可能になりますので、事前調査時の適切な判断が、無駄のない給排水管改善工事の行方を左右することになります。
調査結果によってはマンションの給排水管更新が必須であるとは言い切れません。設計内容・施工内容によってはマンションの建替え検討と同じ時期まで更新なしで行ける可能性も考えられますので、慎重な検討が望まれます。もちろん、部分的な改修工事は適宜実施する必要がありますが、専用部全体に及ぶ更新工事は十分な調査と検討を行ってから実施すべきと考えます。

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