2011年3月に発生した大地震は生まれて初めて経験した大きな地震だった。東京は震度5程度ですんだが、あちこちのマンションで少なからぬ被害が生じた。今も、その被害を巡って何件かの調整を行っている。
地震後にタイルの浮きが発覚し、問題になっているマンション。高層マンションのエクスパンション部分が破損し高額の補修費が必要なマンション。
しかし、その大きな原因が地震ではないケースが実は結構多い事がわかります。タイルの浮きに関しては地震の影響よりも建設時の施工不良が主な原因です。もちろん、一般的な浮きはどの建物でもあることですから当然なのですが、普通とは言えない浮きが生じた場合は、ほぼ建設時の施工不良が原因です。地震のせいにするのは間違いと言えます。
エクスパンション部分については、マンションによっては被害がでているケースもありますが、ほとんど被害が発生していない建物も沢山あります。その被害の差は何かといえば、エクスパンション部分の設計思想と施工内容が大きく影響してきます。エクスパンション部は建物の構造体の縁を切ってある部分なので、設計思想から言えば、地震が発生すれば、それぞれの建物が違う挙動をすることは当初からわかりきっていることなので、その偏移量に応じた設計と施工がなされていなければなりません。しかし、破損した現場を訪れますと、本来の想定が現場に反映されていないケースがほとんどです。コロンブスの卵のような現象が現場で確認されることが多いのは残念なことです。
地震後に受けた相談の中に、ある企業の本社ビルが被害を受け、診断をすることになったケースがあります。被害を受けたのは建築後50年近く経っている鉄筋コンクリート造の建物。外観上はほとんど被害といえるような現象は見受けられないのですが、建物内に入ってみると事務所の床が弛み、机や棚等が傾いている。その場で働く社員の気持ちになってみれば、落ち着かない心理状態と思う。
普段は「建物は、そう簡単には壊れない」と解説している私も流石に一抹の不安を感じたため、日を改めて建設会社に床のクラックを調査してもらったところ、床梁と床スラブの境目に大きなクラックが発生していることが判明。しかし問題はこの建物の建設時期が古いため、現在の建築基準法に合わせようとすると耐震診断費用・耐震補強工事の費用が建替え工事費を超えることも予測されるため、緊急措置として人身事故が発生しない措置をすることに決めました。
企業側・施工側との調整をすませ、夏に補強工事を実施しましたが、鉄骨による補強をするため天井等の仕上げ材を撤去してコンクリートの下面を確認してみると、意外にもコンクリートの大きなクラックはほとんど確認られず、シュミットハンマーによるコンクリートの強度試験の結果でも十分な強度が確認されました。また、玄関扉周りの不具合箇所でも鉄筋の錆はたいしたことなく、十分に健全な状態にありました。
近年、コンクリートの中性化の問題が取りざたされておりますが、まともに作られた建物の場合は、50年程度ではコンクリート・鉄筋ともにびくともしていないことが実証されたと感じ、これまでの自分の主張が間違っていなかったことを確信しました。
コンクリートは結構強いぞ! (ただし、正しく施工されていればの条件付き)