これまで約10年近くの間に、様々なマンションの大規模修繕工事のコンサルティングをしてきた。
コンサルタントの立場は、クライアントである管理組合の財産を守る立場でアドヴァイスし、適正な工事が行われるように導くことだ。日夜闘っている相手は管理組合からいかに多くの工事代金を導き出そうとする管理会社や施工業者である。もちろん彼等も犯罪行為をしようとしている訳ではなく、彼等なりにお客様に満足していただき、その中で商売もさせていただこうとしていることは理解できる。
しかし、厳しく言わせていただけば、踏み込みが足りないのである。
そのいい例が外壁タイルの張替枚数。
外壁タイルの浮きの状態は検査用のハンマーでタイル表面を叩いて調べます。要するに叩いた音を経験を積んだ職人が耳で聞いて判断するわけですが、この音に関しては素人さんでも聞けばわかる程度のものです。強いて難しい点を言えば、少し浮いている音とかなり浮いている音の差から適否を判断する能力を持っていないということでしょうか。
少しでも浮いているタイルの枚数を厳密に数えれば、相当数のタイルが浮いているという回答が出ます。しかしながら、少ししか浮いていないタイルはまず剥落することはありません。完全に浮いているタイルでさえ、そう簡単には落ちるものではないのです。タイル目地の摩擦力によって簡単にはおちないのです。
ここで問題となるのが立場の違いなのです。施工会社は後日何かあった場合に責められる立場にあるので、どうしてもオーバースペックになりがちなのです。おまけに説明する相手が専門家ではありませんから、心配性の素人さんに納得していただくのは至難の業となってしまいます。だったら面倒だから怪しいものは皆張り替えてしまえという方向になりがちなのです。本音を言えば、その方が工事費も増えるわけですから。
しかし、冷静に考えれば張り替える必要もないタイルを無理やり剥がして張り替えることは賢明なことではありません。いわば健康な人に対して不必要な外科手術をするような世界です。
私は常日頃から、こういった無駄な工事を避けるように厳しく仕様書に記述しています。最近はその趣旨を理解してくれる業者さんも増え、現実的な張替工事が実施できていると考えております。
最近実施した工事の平均値を取ってみたところ、面白い数値が見えてきました。
マンションの外壁面積と戸数との間にはある程度比例するところがあるので、実際に張替したタイル枚数を戸数で割ってみたところ1戸当りに換算すると1戸当り 30枚~40枚程度という数字になりました。最近の事例で言うとほぼ30枚に近い数値となっています。
このタイルの張替枚数の考え方は施工会社の営業方針を反映している面も多く、工事費増額と自社の安全比率向上を目論む管理会社系の業者さんはこのタイル張替枚数が倍~3倍程度に膨らんでいるケースがよく観られます。
こちらが厳しく指定したにも関わらず、そういった数字を提示してくる業者さんはクライアントである管理組合よりも自社の利益を重視している会社と考えて間違いないでしょう。