長期修繕計画の落し穴

マンションでは各住民の生活環境や資産環境はマチマチですが、自分以外の資産状況は把握不能です。またマンションを販売する不動産業者は売りやすくするために、修繕積立金等の経費は一般的に低めに抑えられています。そのため、初回の大規模修繕工事を迎える頃になると、将来的な資金計画に問題がある事に始めて気付き、長期修繕計画の重要性を強く意識するようになります。

竣工当初より長期修繕計画が存在するマンションでも、初回の大規模修繕工事を迎える頃になると管理会社から修繕積立金の見直しを提案されることになります。理由は簡単で、マンション販売時には修繕積立金等の経費は最低限に設定されているためですが、設備等の修繕が必要となる時期の計画を組み込むと当初の修繕積立金を大幅に値上する必要があるという現実を突き付けられることになります。

それでは適切な長期修繕計画とは、どんなものなのでしょうか。建築関係の仕事に関わっている方は別として、一般の方にとっては専門分野の話が多く、理解しにくい内容かと思います。よくあるケースでは、小難しい資料が盛り沢山で、どこを読めばよいのかわかりにくく、値上げが必要な理由がどこにあるのかも明確でない報告書が結構多いのです。

★長期修繕計画の立て方は本当は結構単純です。

①現状の修繕積立金のまま、将来想定される全ての修繕工事を実施していくと、どの程度の不足が生じるかを確認する。
②想定できる修繕費不足を解消するために、どの程度の値上が必要かを確認する。
③想定した修繕費用の中で節約できる項目があるかどうかを精査し、管理組合の財政状況に合致する現実的な修繕計画に修正する。

以上の3段階が長期修繕計画の基本ですが、建築の専門家集団ではない管理組合が単独に計画を立てる事は困難で、管理組合としては管理会社や当方のようなコンサルに計画見直しを依頼する事になりますが、ここで注意点が2つ程あります。

1)注意点その1 「管理会社に見直しを依頼する場合」
管理会社に長期修繕計画見直しを依頼する場合は次の点に注意が必要です。管理会社の中には自社で修繕工事を請けて利益をあげようと考える会社も多く、自社に有利な計画を立てることがありますので、管理組合の財政状況を改善するような計画になるように配慮しなければなりません。

2)注意点その2 「コンサルに見直しを依頼する場合」
コンサルは管理組合から業務を依頼され、売り上げを出しますので、コンサルにしてみれば、コンサル費用は多い方がいいに決まっています。そこで、色々な資料を作成して結構な費用を求めるコンサルも少なくありません。もちろん、ある程度の時間は必要なのですが、この世界のプロの目でみると、詳しい部分と、そうでない部分のバランスが悪いケースをよく見かけます。それは何の事かといいますと、次のような内容です。

①建築関係の大規模修繕工事のみ必要以上に細かい。
②大規模修繕工事内容が必要以上に細かい割には単価設定が甘い。
③設備関係の費用予測に不十分な内容が多い。

要するに、全体の中の一部は必要以上に細かいが、肝心の価格設定が甘く、細かく調べた意味が薄い上に、設備等の不確定要素の強い部分の工事費がぬけていて、全体として非常にバランスの悪い計画になっている例が多いのです。

なぜそうなってしまうかというと、そこには明確な理由があります。いわゆる建築の大規模修繕工事は建物の外壁面積によって、ほぼ工事規模が決まってしまうので、工事費予測は比較的簡単です。一般的な内容であれば、マンションの規模で、だいたいの工事費が予測できます。しかし、設備工事は目視出来ない建物内部の修繕となるので、マンションそれぞれの間取りや戸数、階数等によって、設計内容がマチマチです。また当初計画の予算内容によって、設備内容のグレードもマチマチなので、建築の大規模修繕工事のように、マンションの全体戸数から概算工事費を計算することが困難なのです。その結果、長期修繕計画に盛り込まれない可能性が高いのです。

それでは設備工事に関しては「お手上げ」状態かといえば、そうでもなく、建物に関する深い知識と豊富な経験を持ったコンサルであれば、設計内容等から、大まかな費用を推測することも可能なのです。

それから大切な事として、専門家であるコンサルには難しい技術的な内容を「わかりやすく、管理組合に説明する」能力が求められます。一般の方が一目瞭然で理解できる資料を提示する義務があるのです。冒頭で説明した①②③の3段階の計画表をそれぞれ1枚の計画表とグラフで開示できなければなりません。一目で結論が確認でき、詳しい内訳を知りたい場合は解説内容で確認できる状態にすることが望ましいのです。

分厚い報告書のどこに大切な内容が書かれているのかが明快でない報告書は良くありません。

「単純明快に」「結論が見える」ことが重要なのです。

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