姉歯元建築士の問題

この冬、世間に走った衝撃。姉歯建築士の犯した構造計算書偽造問題の背景を考えてみます。

建物を新築する場合、まず最初に行われることは、予定敷地内で建築可能な建物の内容を建築基準法をベースに、建築士が計画案を作成します。普通は、この段階では、構造設計担当者は登場しません。

建築士が作成した計画案を基に、建主が内容を検討した上で、実施設計へと進みます。
実施設計の段階に入ると、姉歯元建築士のような構造設計者や設備設計者等が参加して、詳細設計へと進みます。実施設計が終了した時点で、建築確認申請の段階に進みますが、建築確認申請に進む前に工事金額を積算する場合もあります。

建築確認申請が降りると、工事金額見積⇒建設工事の段階に進むわけですが、今回問題となった構造計算書偽造問題は、どこで発生したかが問題となります。

一般的な設計の流れとしては、着工前の工事見積金額が出た時点で、建主・設計者と工事請負業者との間で値段交渉がなされますが、今回問題となった「発注者・木村建設・姉歯元建築士」の関係はよくある図式ではありますが、ある閉ざされた関係と言えます。一般的には、設計がまとまった段階では施工会社が決まっていないのが理想的なスタイルであるといえます。
もちろん、当初から施工会社を決定してはいけない理由はないのですが、正当な競争論理を働かせるためには複数社による入札が理想的といえます。発注者・木村建設・姉歯元建築士の関係のように、当初から組み合わせが決まっていると、双方に緊張感がなくなり、馴れ合いの図式の中で、コストダウンのみにポイントが集中しかねません。そうした場合、仕事を出す側の発言力が強くなるのは理解しやすい話です。

我々が普通に設計している場合でも、意匠設計者と構造設計者の間に、ある種の駆け引きはあります。

意匠設計者は構造設計者に柱や梁の寸法を小さくするように要求することは、よくあることで、これは悪意でやっていることではなく、空間をスッキリ見せたいがために、構造担当者に要求することとなる訳ですが、ここに設計者同士の信頼関係があれば、問題が発生することはありません。

今回深刻な問題となった理由として、設計者でない立場の人が直接構造担当者に断面の削減を迫ったことや利益追求を重視しすぎる人達の存在があったことが考えられます。本来、設計士のクライアントは建主の筈なのですが、発注・建設会社・建築士の固定した関係が、利益追求に焦点が絞りこまれた歪んだ図式に陥ってしまったためと考えられます。

本来、設計者のクライアントは建主の筈なのに、なぜか工事業者が姉歯元建築士のクライアント的存在になっていることが原点となっています。言い換えれば、姉歯元建築士は建設会社の下請けになっているため、本来の正しい意見を主張できなかったものと考えられます。姉歯元建築士は弱い立場の人間ということになりますが、構造計算書偽造という違法行為に手を染めた姉歯元建築士の責任が重大であることに変りはありません。

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