不正工事杭の安全性

社会問題となった横浜のマンションの杭工事不正問題は、あってはならない事であり、関連業者に社会的制裁が加えられる事は当然のことですが、社会資本としての観点から考えてみれば、今回の不正工事が全棟建替えという結論で簡単に終らせていいものかといえば、それは違うと思います。一生に一度とも言える大きな買い物で騙された!という怒りと憤りは当然ですが、人の住む住宅施設としての意味が全て否定されるものでもありません。販売者側がインチキをしたという点では反論の余地はないのですが、杭の欠陥内容も含め、本当に使用に耐えない建物なのかどうかは別に冷静に検証する必要があると思います。

まず最大の論点は建物の安全性に関しての議論なのですが、マンション購入者の精神的ダメージは別として、建物の設計基準の許容範囲の立場で考えていくと、どうも設計基準の点からは許容範囲内にあると考えざるを得ません。日本建築学会で発表されている「建築基礎の性能評価方法に関する国内外の技術基準等の比較」という資料から引用すると、建築基礎構造設計指針には建築物の沈下、変形、傾斜の許容値・限界値という説明があり、布基礎やべた基礎のように連続した基礎に関しては相対沈下の限界値が軟弱地盤で4㎝~6㎝。硬い地盤で1/1000と書かれています。この硬い地盤での変形角1/1000という数値が、構造の大先生が言っておられた不等沈下の許容範囲の数値なのだと思います。この数値が横浜の建物に関して言えば1/2500程度であるということになります。

また別の観点から、住宅品質確保法(国土交通省告示1653号)では床の傾斜(区間3m以上)が3/1000未満の場合は構造耐力上主要な部分に瑕疵が存在する可能性は低いと書かれています。もちろん、床の傾斜角度と構造フレームの傾斜は同じレベルで議論は出来ないのですが、相対的なイメージで考えれば意味合いは同じといえます。ちなみに構造耐力上主要な部分に瑕疵が存在する可能性が高いと判断する基準値は6/1000以上となっています。6/1000=1/167であり、建築基準法で規程されている層間変形角の許容値1/200以上となるので、弾性範囲を超えて危険と判断されるのでしょう。建物全体の傾きでなく、短辺方向の傾きだけで考えても、その数値は、せいぜい1/400~1/500程度ですから、様々な基準から判断すれば、構造体の安全性に関しては変形量は許容範囲内に収まっているのが現実と考えます。

それゆえ、全棟建て替えが良くないと言っているのではなく、不正箇所の検証と修正補修方法等の検討をする必要があるのだろうと考える所以です。検証の結果、技術的には部分補修で十分な安全性が確保できることが明確になれば、長い年月をかけて全棟建替えをする事の様々な社会的ロスを減らすことにも繋がるだろうと考えてのコメントです。

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